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資金調達2024/03/14

資金調達を加速する!直接金融と間接金融について詳しく解説④

直接金融と間接金融をテーマにしたお話は今回が最終回になります。ステークホルダー(利害関係者)目線からの資金調達の特徴や加重平均資本コスト(WACC/ワック)といったキーワードと絡めた説明をしたいと思います。

資金調達を加速する!直接金融と間接金融についてより詳しく解説①

資金調達を加速する!直接金融と間接金融について詳しく解説②

資金調達を加速する!直接金融と間接金融について詳しく解説③

 

ステークホルダー(利害関係者)視点で考えよう

ステークホルダーの利害を把握することはビジネスの世界では基本です。プロジェクトマネジメントの分野でもステークホルダーマネジメントは超重要な知識エリアと定義されますし、企業統治や内部統制を考える上でもステークホルダーの分析は最重要事項と言えます。もちろん財務部の仕事でもとても大切です。

どの資金調達を選択するかは前回お話したようにレート比較等を使った意思決定があり得ますが、大前提としてステークホルダーの利害を考えないといけません。直接金融の一つである株式発行なら当たり前ですが、「株主」というステークホルダーの利害を考えないといけません。安易に株式発行すると既存株主にとっては不都合になり得るケースもあります。

社債発行の際のステークホルダーは多岐にわたる可能性があります。環境に優しいビジネス促進のために資金調達をしたい場合に、「SDGs債」みたいな名目でアプローチをすれば、その理念に共感してくれるステークホルダーが投資家になってくれるかもしれません。その場合は理念に共感してくれる投資家は通常より低いレートで融資に応じてくれるかもしれません。企業側にとって魅力的な資金調達が実現できる可能性が高まります。

銀行借入の場合は当たり前ですが「銀行」等の金融機関がステークホルダーになります。バブル崩壊以降の日本では多額の不良債権が社会問題になりました。要するに借り手のビジネスが絶不調で、銀行が貸したお金を回収し損ねる現象です。
日本長期信用銀行(現在の新生銀行)や日本債権信用銀行(現在のあおぞら銀行)が破綻したのは記憶に新しいです。こうしたバブルの教訓から、銀行も徹底的に不良債権にならないように借り手企業に対して、目を光らせます。企業の業績が悪化すると不良債権になることを回避するために、経営に対して銀行もある程度、口を出さざるを得ないのです。自由に経営をしたい経営者から見ると、こういった事態は目の上のたんこぶ状態で、とても鬱陶しい存在と言えるでしょう。一転して面倒くさいステークホルダーに変貌するかもしれません。

逆に社債の場合はこういった銀行の利害を排除できることがメリットと言えるでしょう。ただし業績が悪くなり、一定の格付けを維持しないと社債自体が発行できないということも考慮にいれないといけません。

ステークホルダーの利害は財務戦略上、絶対に無視できない要素です。

 

社債に頼りすぎるな

前章みたいな利害関係を考慮すると、経営者側の目線だと社債が一番魅力的な資金調達手段かなと、昔の私は思っていました。既存株主の持ち株比率にも影響を与えないし、銀行からうるさいことを言われることもありません。社債発行ができる立場の会社の場合、極端に社債に偏った資金調達をした場合のデメリットがあまり思い浮かびませんでした。実際に資金調達さえ出来てしまえば社債は一番自由度が高いのは事実だと思います。銀行の影響度を排除したい場合にとてもメリットがあると言えるでしょう。

ただし企業は未来永劫、利益を出し続けられる保証はありません。以前の記事でも記載させて頂きましたが、社債発行には一定以上の格付けキープが、社会的な使命として付きまといます。

直接金融に偏り過ぎた事例としてあげられるのは、2010年前後の消費者金融業界です。若い人には馴染みが薄いかもしれませんが、当時はテレビCMも積極的に打っており、知らない人がいないくらい知名度のある会社が破綻に追い込まれるという問題が発生しました。破綻した会社は日本の銀行との関係性が希薄で、極端な直接金融型の財務戦略をとっていました。逆に生き残った消費者金融業者はメガバンクと太いパイプを持っていました。(皆さんが知っているような消費者金融の会社のホームページを調べると、メガバンクと繋がりが深いのは一目瞭然です)その結果、業績が傾いた時にメインバンク等が助け舟を出してくれました。もちろん破綻理由はこれだけではなく、色々な側面が複雑に絡み合っていると思います。しかし間接金融の割合を増やして、直間比率のバランスを財務戦略の中核に据えておけば運命は違ったのかもしれません。

社債発行ができる立場にある会社の場合のこの直間比率(直接金融と間接金融のバランス比率)の最適化を考えるのも醍醐味かもしれません。銀行と過去から強く長いつながりがある場合も、社債での資金調達を検討することは大切です。なぜなら社債発行時の条件が有利なら、それが銀行から借りる際のレート条件の交渉材料につながるからです。結果的に社債発行しなくても、銀行との関係性の強化に間接的に役に立つかもしれません。

上記の例は極端かもしれませんが、やはり社債発行に偏りすぎた資金調達のリスクが見えたという意味では教訓になりそうです。何事もバランスが大事ということです。

 

加重平均資本コスト(WACC/ワック)とは

前章で直間比率のバランスの話をしましたが、そのバランスを考慮する上でとても大切な概念が加重平均資本コストです。英語だと「Weighted Average Cost of Capital」で、「WACC(ワック)」と呼ばれます。少し財務金融分野に触れたことがあれば、比較的聞いたことがあるかもしれません。私の最初に勉強したときは「CFO(最高財務責任者)的な人が企業の財務戦略を考慮するときに使ってそう」みたいな印象を持っていました。

計算式を見ると「難しそう」という印象を持たれるので、あえてここでは載せません。

資本コストとはお金を調達したときに発生するコストのことです。銀行借入や社債なら支払利息がそれに当たります。また社債は利息以外にもいろいろな手数料を支払わないといけませんので、こういったコストも諸々含める必要があります。こういったコストを加重平均して割り出したものがWACCになります。

また株式発行の場合も企業は稼いだ利益の中からお金を出してくれた株主に配当金という形で謝礼を払います。(株主の立場からみるとインカムゲイン)株式発行と借金(社債、銀行借入)は一般的にどちらが資本コストを押し上げるでしょうか?これは実は株式発行です。株式は一般的に投資家から見ると元本割れのリスクのあるハイリスク金融商品という位置づけです。冷静に考えると当たり前ですが、ハイリスクな金融商品に投資する場合はローリスクな金融商品(社債等は元本割れは原則ない)より旨味がないと動機づけが働きません。投資家に旨味があるということは、たくさんお金を支払う企業から見るとコストの押し上げになります。もちろん企業が赤字だと未配当になるケースもあります。ただこういう状況が続けば株主から厳しい目を向けられるのは必然です。株式による資金調達は借金ではないため、元本返済義務はありませんが、資本コストから考えると必ずしも最適とは言えないケースもあり得ます。

ちなみに株式によって調達した資本を「自己資本」と呼びます。株主は会社のオーナーになるから「自己」になります。社外の投資家や銀行から資金調達をした資本を「他人資本」と呼びます。社債や銀行借り入れがこれに当たります。

直間比率のバランスを考えることも大切ですが、自己資本と他人資本のバランスも重要と言えるでしょう。前章と同じ締め括りになりますが、この最適バランスを徹底的に分析することが企業の財務戦略では重要ということです。

 

WACCは何に使うの?

WACCがどういう指標からのイメージは掴めたと思いますが、「で・・・何に使うの?」という疑問が出てくるかもしれません。(まさに私がこれでした・・・)使い方の一つとして「ハードル・レート」というキーワードを覚えておきましょう。ハードル・レートは新事業の立ち上げ時に投資評価で最低限必要とされる利回りの意味で使われます。何か難しそうと思うかもしれませんけど、そんなことありません。あなたが仕入販売をするときに100円で仕入したものを、90円で売らないはずです。損が出るのが当たり前だからです。お金の調達コスト率が6%かかっているのに、利回り4%のビジネスをやったらこれも結果的に赤字になることが目に見えています。超えなきゃいけないハードルに使わるということです。まずはこれを覚えておきましょう。

 

終わりに

私は新卒時に就職活動したときは、安定した会社に就職したいみたいな思いを当時は持っていました。(経済が不安定だった就職氷河期にありがちな発想です・・・)

ちょっと財務会計をかじった程度の学生に出来たのは自己資本比率が高い会社に就職したい!程度のいい加減な財務分析でした。記事でもお話したように株式発行に極端に偏った資金調達をすれば自己資本比率が高まります。逆にWACCを最適化するために財務戦略を練ると、自己資本比率をあえて下げるという意思決定も充分ありえるのです。無借金経営は素晴らしいですが、あえて戦略的に無借金にしていない企業も世の中にはあります。

社会人になって財務部に配属された場合はこういった視点をもって、専門書を読むと知識の吸収スピードも上がるはずです。ぜひ参考にしてみて下さい。また実務では財務戦略について経営者や他メンバーとすぐ情報共有できりようにシステムでの管理が望ましいです。
COURAGEUXのような財務管理パッケージ型のクラウドシステムだと、他人資本部分の資金調達の詳細管理が簡単に行えます。エクセルによる属人管理から脱却して、財務戦略に活かしましょう。