COURAGE Lab

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資金調達2024/02/28

資金調達を加速する!直接金融と間接金融について詳しく解説③

今回も社債を主人公にして、直接金融と間接金融についてお話していきます。財務担当として実務でどういったポイントを勉強すればよいかをテーマにしてみます。簿記や企業財務の勉強をすると多くの人が「WACC(ワック/加重平均資本コスト)」みたいな用語を目にします。大学の経営学部/商学部でこういった分野を学習したことのある人であれば、何となくWACCを使って分析できたらカッコイイみたいな憧れを抱いたことがあるはずです。(学生時代の私もそうでした・・・!) 

ただしこういう指標の勉強を始める時には大前提の最低知識が必要になります。そこらへんに焦点を当ててわかりやすく説明してみます。特に社債発行時に利息以外の様々な費用が発生することは簿記検定の勉強だけでは学べない貴重な知識だと思っています。 

まずは読み始める前に前回と前々回の記事を復習して下さい。 

資金調達を加速する!直接金融と間接金融についてより詳しく解説①

資金調達を加速する!直接金融と間接金融について詳しく解説②

 

社債発行と銀行借入どっちがよいの? 

同じ借金である銀行借入(間接金融)と社債発行(直接金融)の使い分けを勉強していきましょう。新規ビジネス発足や手元運転資金の確保等、目的は様々だと思いますが「100億円の資金調達をしなければならない」・・・金額の大小はありますが、財務担当のあなたにこんな使命が降りかかってくることもあるはずです。社債発行できるくらいの格付があることが前提になりますが、資金調達手段(直接金融or間接金融)を比較検討する場面です。 

もちろん意思決定の材料はここに書いたものに留まりませんが例として3つほど挙げてみます。 

①レートの比較 
これは当たり前ですが、借入時のレートは低いほうがよいですよね。
私達個人に置換をしても一般的にクレジットカードのリボ払いを、私は他人に推奨しません。なぜなら支払額を一定に出来るメリットはありますが、結果的にとんでもない利息を払わないといけないからです。それと同じです。企業も利息負担が出来るだけ少ない資金調達手段を選択するのが合理的です。直接金融の社債のほうが理論上は低い利率で資金調達ができます。 

②返済のサイクル 
例外はありますが社債の償還(返済)サイクルは銀行借入より長期に渡るのが一般的です。銀行借入は1ヶ月や3ヶ月といった短期サイクルでどんどん元本部分の返済を行っていくことが多いです。したがって100億円の融資を受けたとしても手元にそのまま置けるわけではありません。 
社債なら5年後、10年後に一括償還みたいなケースがわりと見受けられます。最近(2024年)経済記事で話題になっている楽天グループの8000億円の社債償還の問題もこういうポイントが焦点になります。細かく返済するのではなく、2024年~2025年の集中した期間に返済しなければいけないリスクが至るメディアで強調されています。もちろん楽天グループも無策ではなく、それに対して様々なリスク回避策を講じていることが連日報道されています。 
少し余談でしたが・・・調達したお金を出来るだけ手元に置いて経営を行いたい場合は社債にメリットがあるかもしれません。ただ注意しなければいけないのは①と矛盾するようですが、利息負担が社債のほうが大きくなるケースがわりとあります。銀行借入の場合は時間の経過に応じて借入残高がどんどん減少します。元本が減少すればその分、利息負担額も減少するという当たり前の事象が発生します。 
「社債は0.5%のレートで資金調達できるが、銀行借入は1.0%のレート負担をしなきゃいけない。レートの低い社債で資金調達しよう!」・・・こんな単純すぎる意思決定は絶対にしてはいけません。 

③資金需要時期にばらつきがある場合(分割して融資を受けたい) 
100億円の融資を受けたいけど、一括ではなく分割で段階的に融資を受けたい場合もあるでしょう。1月の段階では20億必要で、6月に追加で30億借りて、12月に50億追加して総額100億円の資金調達をしたい、みたいなケースです。こうした未来に渡っての追加融資がコミット(約束/保証)されている資金調達手法を「コミット型タームローン」と言い、多くの銀行でサービスとして提供しているはずです。分割で借入実行できるため日本語だと「分割実行」みたいな表現をすることもあります。銀行はさすが貸金業のプロというだけあって、企業のニーズにフィットした柔軟で便利なサービス提案をしてくれます。 
このように資金需要時期にばらつきがある時にいきなり100億円の社債発行をしてしまうとMAX100億円の元本から利息計算するため、利息負担がとんでもないことになったりします。

上記のような様々な材料を比較検討して意思決定できる能力が企業の財務担当には求められます。上記の①~③のような事項を考えるときは単純に利息総額を比較するだけではいけません。必ずお金の時間価値を考慮する必要があります。下記記事を読んで復習して下さい。 

お金の時間価値についてわかりやすく解説!金融商品の時価開示とは?

レートだけで社債発行の決定をするな 

いきなり前章の重要ポイントとしてあげたレート比較の否定から入ります。矛盾しているように感じると思いますが・・・もう少しお付き合い下さい。直で貸し手と借り手と繋がることができる直接金融型の社債のほうが、理論上低レートで資金調達できることは前述しました。 
しかし直接金融だからといって貸し手に対してダイレクトに交渉できるかというと、そんなことはありません。実は銀行借入と同じく、金融機関が仲介するのです。社債発行企業が負担する利息というのは当たり前ですけど、貸し手から見た儲けになりますよね?利息が金融機関の儲けではないという利害関係が重大ポイントです。この時に金融機関はボランティアで無償仲介対応なんて当然してくれません。金融機関にとってもビジネスチャンス(儲ける機会)だから仲介をしてくれるのです。 
結論から言うと金融機関に色々な手数料を払わないといけません。さらに金融機関以外に払う各種費用もあります。 

<金融機関へ支払う手数料> 
 ・引受手数料 
 ・発行代理人手数料 
 ・利金支払手数料 
 ・元本償還手数料 ・・・等々 

<その他> 
 ・格付に関する費用 
  →前回の記事で取り上げた格付会社へ支払うお金 
 ・広告関連費用 
  →貸し手候補に認知してもらわないと資金調達は絶対にできません 
 ・“ほふり”への新規記録のための費用  
  →証券保管振替機構(ほふり)のホームページで発行している社債情報がみれます 
 ・保証料の支払 ・・・等々 

とりあえず思いつくものを適当に列挙してみましたが、これだけでは網羅できていません。ここで強調したいことは社債発行というのは、とにかくお金が掛かります・・・! 
上記のような各種費用をひっくるめた実質レートをベースにして意思決定する必要があります。いくら掛かるかだけではなく、お金の時間価値まで考慮にいれると、いつ払うかもとても重要な情報です。 
このような実質レートを判断するにはIRR(内部収益率)の概念が使用可能です。日本語だと「内部収益率」ですが、資金調達側から見ると費用負担なので私は「内部コスト率と読み替えて下さい」と他の人には説明します。(この表現は公式では無いのでご注意下さい) 
ちなみにエクセルで「IRR」はそのまま関数として使えます。使い方も検索すれば簡単に出てきます。 
こういう指標を出すと難しい概念だと誤解される方がいらっしゃいますけど、例えば下記の条件なら誰でも簡単に意思決定できますよね? 

例)インターネットショップで欲しかった靴を購入するケース 
■選択肢① 
 Aショップで購入する場合 
 商品価格:5000円(送料込み) 
■選択肢② 
 Bショップで購入する場合 
 商品価格:4500円(送料:別途1000円)  

「商品価格の安いBショップで購入しよう」なんて意思決定をせずに、Aショップで購入したほうが500円節約できるのは明らかです。ここで言う商品価格をレートに読み替えればよいのです。送料の負担分も考慮して意思決定するのが当たり前だと思います。 

例)資金調達のケース 
■選択肢① 
 社債発行する場合 
  レート:0.5%→IRRで算出した実質レートは1.3% 
■選択肢② 
 銀行借入をする場合 
  レート:1.0%→特に利息以外には大きな費用は発生しない前提  

先程の例と同じように実質のコスト負担の少ない銀行借入を選択したほうが合理的というケースも多々発生します。見た目上のレートだけに騙されないで下さい。単純な数値比較なんてしていたら、実務者として失格の烙印を押されてしまいます。 
さらに実質レート同士の比較以上にまで視野を広げることが大切です。こうしたコスト比較表をいち早く作成することが出来れば金融機関への価格交渉の武器にもなります。こういう対応を行えるようになれば戦略的な財務担当と呼んでもらえて、所属会社から重宝されることでしょう!価格交渉の結果、実質レートが逆転するかもしれません。その場合は選択肢①の社債発行が合理的になるのです。 
こういた実質のコスト率のことを「オールインコスト」と呼ぶこともあります。オールインコストの切り口で戦略的な意思決定を行えるように勉強しましょう。これが簿記検定の勉強だけでは習得できない実務で使える知識です。 

次回展望 

「うちの会社は無借金経営だから、こんなことは考えなくて仕事が成り立つ」と思っている人がいたら要注意です。自分の所属する会社が大規模M&Aや新規ビジネス発足を突如宣言するかもしれません。あるいは会社が急成長して、社債発行の選択肢がいきなり目の前に現れるかもしれません。その時の資金調達プロジェクトの責任者はあなたかもしれません・・・。しっかり勉強する必要のある知識です! 
次回が「直接金融と間接金融」テーマの最終回です。まだまだ話をしたい実務テーマがあるので、最後までお付き合い頂ければ幸いです。 

上記のようなオールインコストをIRRの概念で算出するような機能がクラージュUXのような財務管理システムには搭載されています。借入前のシミュレーションを行うためには、こういったパッケージ型クラウドサービスの導入をお薦めします。