COURAGE Lab

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資金調達2023/12/25

資金調達を加速する! 現金主義と発生主義について詳しく解説 ①

今回は「現金主義」と「発生主義」についてお話してみたいと思います。この記事は最低限の簿記の知識があることを前提にしていますので、その点はご注意下さい。減価償却費や未払費用(もしくは前払費用)等のイメージがあれば完璧です。ここらへんに苦手意識があっても、仕訳が少しわかれば十分理解できます。

私は大学時代の専攻が財務会計/管理会計だったので、この言葉のニュアンスを社会人になる前から知っていました。しかしどちらかと言うと学術的に使う表現で、あまり実務の世界で登場するイメージはありませんでした。

実際にはこの2つの言葉「現金主義」「発生主義」は頻繁に使う場面がたくさんあり、とても役に立つ場面が多かった印象です。ちなみに私が会計システムの立ち上げのシステムエンジニアだった時の会話例がこんな感じです。 

私「この費用勘定に対応する未払費用の勘定科目コードがありませんよ?  
  流動負債の勘定科目コードを追加しなくて大丈夫ですか?」 
経理「この費用勘定の発生は全て現金主義なんだよね。」 
私「じゃあP/L用の費用勘定科目だけでよいですね。この科目体系でいきましょう!」  

経理部門の人とこんな会話がスムーズに出来たときにとても嬉しかった記憶が鮮明に残っています。経理や財務部門の社会人なら必須知識です。また会計システム周りの構築に携わるシステムエンジニアでこんな会話が出来れば経理マンから一目置かれること間違いありません。 


 
現金主義のイメージ 

簿記の勉強を途中で断念してしまった人でもわかる仕訳例で説明をします。おそらくここまでは(残念ながら・・・)学習を断念してしまった人でも到達できている人が多いはずです。売上を掛取引で計上したときの仕訳は下記になります。

この仕訳は多くの人がイメージ出来るでしょう。実はこれが一番簡単な「発生主義」の事例です。ここで、もう一つ切り口を変えた仕訳事例を載せてみます。ちょっと簿記を勉強するとこういう発想が出てくる人が多いと思います。こっちが「現金主義」の発想です。 

私は初めて簿記を勉強したときにこんな発想を持っていました。入金されたときに売上計上しちゃえば仕訳1本で済むし、最終的に完成する決算書も同じだよな。「だから4月30日の仕訳1本に集約しちゃっても良いのでは・・・?」という考え方です。実はこのお金の動きという一面で考えるのが「現金主義」です。(家計簿みたいな発想ですよね) 

でも実際にはこの「現金主義」の考え方は一部の仕訳処理では登場しますが企業の中核をなす重要な取引では採用されません。こういう重要性の高い部分には「発生主義」の考え方が適用されるのが一般的です。 

現金主義の限界と発生主義について

それではなぜ重要な会計処理で現金主義が採用されないかを説明していきます。先に出した仕訳例で現金主義の問題点を説明します。結果的に同じ仕訳なのに、売掛金を使用しない会計処理方法が採用されないのでしょうか?同じ仕訳例に年度と追加コメントを載せました。これが現金主義の問題点です。 

 

売上の勘定科目を強調してみました。決算日が3月31日だった場合に発生主義と現金主義では売上が計上される年度が異なることになります。「2022年度に従業員が頑張って立てた売上なんだから、会計上の売上も2022年度に計上しようよ!」・・・学術的な説明だと不十分かもしれませんが、これが発生主義のニュアンスになります。2022年の頑張りで達成した売上は2022年度に“発生”するという考えなのです。(だから“発生”主義) 

現金主義だけで決算書を作ってしまうと、こういう重要要素を省いた決算書になってしまい、企業実態を十分に表現することができないことになります。 

簿記の学習を断念する人が多いテーマは「減価償却」「貸倒引当金」「未払費用」「前払費用」あたりではないでしょうか?実はこういった複雑な仕訳が出てくる場面の根底にある考え方が発生主義となります。売掛金の事例で発生主義のイメージをもってから、これらのテーマの学習(復習)に取り組んでもらえると理解がより深まるはずです。 

現金主義が許される場面 

前章で「現金主義」の問題点について触れましたが、別に現金主義が完全否定されるわけではありません。ある場面では現金主義が使用されます。例えば企業が買い物をしたの極端な事例を2つあげてみます。同じレベルの会計処理が求められるでしょうか? 

A)事業で使用する建物を20億円で現金購入した 
B)事業で使用する文房具(消しゴムでよいです)を100円で現金購入した 

買い物をしたという意味ではどちらも同じなのですが、やはりA)は発生主義で法定耐用年数に応じて数十年かけて減価償却費を計上するでしょう。最近は鉛筆もシャーペンも使わないので、私なら消しゴム一つで20年は持つと思います!もしこんなところにまで発生主義を持ち込んでしまうと5円ずつ毎年減価償却費計上するというカオスな状況が生まれます・・・20年たつ前に紛失しそうですが、消しゴムを紛失するたびに固定資産のように除却処理していたらそれもまたとんでもない管理工数が発生しそうです・・・ 
そうなったら面倒すぎますよね?なので重要性の低い場面にまでは発生主義は持ち込まなくても良いルールになっています。 

次回展望 

今回の記事では現金主義と発生主義の違いを簡単な事例を使って、説明してみました。ニュアンスは十分につかめたと思います。次回はもう少し難しい仕訳例を使った応用編の記事を書いてみたいと思います。 
特に財務担当者だと銀行借入の際に未払利息の計算をしていると思います。これもまさに「発生主義」のために行っているといっても過言ではありません。したがって次回は未払費用と前払費用をテーマにする予定です。簿記を勉強したことがある人だと、何となく計上した未払/前払を決算翌日に逆仕訳で洗替するイメージを持っていると思います。なぜ翌月初に洗替するのか等をわかりやすく説明します。私も最初は意味もわからず、とりあえず逆仕訳を期首に洗替計上する、みたいに覚えていたのがとても懐かしいです・・・