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2025.9.17
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その他
借入金の担保とは?財務担当者が押さえるべき基本知識

資金調達において「担保を付けるかどうか」は、金融機関との交渉条件や契約の安定性を大きく左右します。借入条件や金利だけでなく、財務戦略や資産管理にも関わるため、財務担当者にとって基本を押さえておくべき重要なテーマです。普段の借入では担保を必要としないケースが多いものの、プロジェクトや特定の案件では担保付借入が必須となることもあります。本記事では、担保付借入の仕組みや活用場面、開示や実務上の留意点について整理します。
担保付借入と無担保借入の基本的な違い
担保付借入とは、企業が保有する資産を差し入れることで、金融機関が返済不能時に優先的に回収できる権利を持つ借入形態です。代表的な担保には、不動産・有価証券・在庫や売掛債権などがあり、返済リスクを低減できるため、無担保借入と比較して金利が低めに設定される傾向があります。
一方、無担保借入は特定の資産を差し入れず、企業の信用力や財務基盤そのものを担保とする調達方法です。シンジケートローンや社債発行などが典型で、資産の流動性を維持できる利点があります。ただし、信用力が求められるため、企業の財務状況や格付けに左右されやすい面もあります。
担保付借入が利用される場面
日常的な運転資金や短期の借入では担保が不要なケースが多いですが、以下のような場面では担保付借入が必要になることがあります。
発電所や不動産開発、航空機や船舶の購入など、個別のプロジェクトに対して長期的に資金を調達するプロジェクトファイナンスでは、金融機関はプロジェクト資産を担保として設定することを求めます。
新興国など、金融機関が信用リスクを重視する地域では、現地での借入に担保を差し入れることが一般的です。特に不動産や有価証券を用いた担保設定は、条件を有利にするための手段になります。
また、担保を差し入れることで金利スプレッドを抑えることが可能です。金融機関にとっては安心材料となり、借入金利の優遇や融資枠の拡大につながるケースもあります。
プロジェクトファイナンスについては以下記事をご参照ください。
プロジェクト会計のベストプラクティスとは?
担保の種類と特徴
財務担当者が理解しておくべき担保の主な種類は以下の通りです。
不動産担保:土地や建物を対象とし、抵当権を設定。安定性が高い一方、資産流動性が制限されます。
有価証券担保:株式や債券を差し入れる方法。評価額の変動により追加担保を求められるリスクがあります。
動産・売掛金担保(ABL: Asset Based Lending):在庫や売掛債権を活用した融資。資産を積極的に活用できる反面、金融機関側の評価体制が必要です。
保証人・保証会社:人的保証や信用補完機関を活用する方法。資産担保ではありませんが、広義の担保と位置づけられることがあります。
担保の選択は、資産の特性や調達の目的、金融機関との関係性によって異なります。
開示と管理の実務上の留意点
担保付借入を行った場合、財務諸表や有価証券報告書では、担保付借入金残高や担保に供している資産の内容を注記する必要があります。特にグループ会社や海外案件で担保を設定する場合、本社財務部門で情報を集約し、開示に反映させる体制が不可欠です。
また、担保評価の変動によって追加担保を求められることがあり、リスク管理の観点からも継続的なモニタリングが求められます。
財務戦略における担保付借入の位置づけ
担保付借入にはメリットとデメリットがあります。
メリットとしては、金利を低く抑えられる可能性があること、金融機関からの信用を得やすく調達枠の確保につながること、特殊案件においては調達の前提条件となることが挙げられます。
一方デメリットとしては、資産の自由度が制限され売却や移転が難しくなること、財務制限条項により戦略的な意思決定に影響する可能性があること、評価額の変動により追加担保を要求されるリスクがあることが挙げられます。
財務戦略上は、担保付借入を資金調達の確実性を高める手段として位置づける一方で、資産の拘束による制約をどう回避するかが重要です。
まとめ
担保は資金調達における重要な条件設定のひとつであり、契約内容や調達コスト、財務の柔軟性に大きな影響を与えます。普段は担保を必要としない借入が中心であっても、特定のプロジェクトや海外展開など、ケースによっては担保付借入が不可避となることがあります。
財務担当者としては、担保付と無担保の違い、担保の種類と特徴、開示や管理上の留意点を理解し、資金調達戦略に応じて柔軟に対応できる体制を整えておくことが求められます。
担保は単なる契約条件ではなく、企業の信用力や資産活用のあり方を映すものでもあります。基本を押さえたうえで戦略的に活用していくことが、安定的な財務運営につながります。