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2025.9.24
資金調達
借換リスク(リファイナンス・リスク)とは?財務経理担当者が押さえるべき管理指標と実務対応

借換リスクとは何か
借換リスク(リファイナンス・リスク)とは、既存の借入金を返済期日に返済できず、再調達が困難になる、あるいは大幅に不利な条件でしか借換ができないリスクを指します。多額の借入を前提に事業を進める業界において、このリスク管理が企業の存続を左右するほど重要です。
近年は金利上昇により、借換時の条件悪化(利率上昇・融資姿勢の引き締め)が現実の課題になっています。資金繰りの余裕が乏しいプロジェクトでは、わずかな金利上昇でも収支計画が崩れる可能性があるため、財務担当者は借換リスクを「見える化」し、経営層や金融機関に説明できる体制を整える必要があります。
借換リスクが企業財務に与える影響
借換リスクが顕在化すると、企業は以下のような影響を受けます。
- キャッシュフローの圧迫:一括返済の必要が生じると、運転資金や新規投資に使う余力がなくなる
- 金融機関との信用低下:返済計画が甘いとみなされれば、以降の融資条件が厳しくなる
- 財務指標の悪化:DSCR(債務償還余裕率)やD/Eレシオ(負債比率)、利息負担率などが一気に悪化し、財務健全性を疑問視される
例えば不動産業はとりわけ「プロジェクト単位」で資金を調達するため、返済時期が集中しやすく、複数案件が同時期に満期を迎えると、企業全体の財務基盤を揺るがすリスクになります。
DSCR(債務償還余裕率)、D/Eレシオ(負債比率)についての記事もご参照ください。
借換リスクを測る管理指標
借換リスクは、定量的に把握できる指標を用いることで管理が容易になります。代表的なものを紹介します。
- マチュリティ・ラダー(借入残高の返済期限分布)
返済期限を棒グラフで可視化し、どの時期に資金需要が集中しているかを把握。 - 加重平均借入期間(WAM: Weighted Average Maturity)
借入残高の加重平均で返済までの期間を算出。短期偏重か長期分散されているかを示す。 - 借換比率(リファイナンス依存度)
年間返済予定額のうち、どの程度を借換に頼らざるを得ないかを数値化。
これらの指標を組み合わせることで、財務担当者は「返済集中度」「資金調達の柔軟性」を客観的に説明できます。
マチュリティ・ラダーについては以下記事をご参照ください。
実務での借換リスク低減策
財務担当者が取り得る具体的な対策は以下の通りです。
- 極度額契約やコミットメントラインの活用
万一の返済ショックに備え、随時利用可能な枠を確保する。 - 借入の分散化
複数金融機関から、異なる条件・返済期限で資金を調達し、集中リスクを避ける。 - 長期借入比率の引き上げ
短期借入の比率を下げ、返済スケジュールを平準化する。 - 金利ヘッジの導入
スワップ契約などで固定化し、将来の金利上昇リスクを軽減する。
こうした対策は単独で効果を発揮するというより、複合的に取り入れることで安定性が増します。
不動産業界で事例を踏まえたポイント
不動産業界の借換リスクには、業界特有の要素があります。
- プロジェクトファイナンス依存:土地取得から竣工・販売・賃料発生までの期間が長く、その間の借換が不可避。
- 借換時期の集中:複数プロジェクトのローンが同時期に満期を迎えることで資金繰りが急激に悪化する可能性。
- SPC(特別目的会社)の利用:ノンリコースローンを使う場合、借換条件次第で事業収支が大きく変動。
- 金融機関の出口重視:売却やリーシングの進捗が遅れれば、借換が難航し、条件悪化につながる。
このため不動産会社の財務担当者は、「返済スケジュールを定量的に把握し、出口戦略とセットで借換リスクを説明できること」が金融機関対応のカギとなります。
まとめ
借換リスクは、借入の多い業界において最も警戒すべき財務リスクのひとつです。
返済集中によるキャッシュフローの圧迫や、金融機関からの信用低下は、企業の成長戦略そのものを阻害しかねません。
財務担当者は、マチュリティ・ラダーやWAM、借換比率といった管理指標を駆使し、リスクを定量的に把握・説明することが求められます。そして、経営層や金融機関に説得力ある資料を提示することが、資金調達力強化のカギとなります。
金利上昇環境のいまこそ、借換リスクを正しく管理し、安定した財務運営を実現することが必要です。

