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2025.7.29

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不動産投資会社におけるDSCR(債務償還余裕率)の活用法とリスク管理

不動産投資会社におけるDSCR(債務償還余裕率)の活用法とリスク管理

不動産投資における財務戦略は、収益予測と借入返済能力のバランスを取ることが極めて重要です。特に、DSCR(Debt Service Coverage Ratio / 債務償還余裕率(元利金返済カバー率))は、金融機関が融資審査において最も重視する指標の一つです。ファンド運営者や不動産投資会社の財務担当者にとって、DSCRは投資の健全性を測り、安定したキャッシュフローを確保するための不可欠なツールとなります。
DSCRの基礎については以下記事をご参照ください。

DSCR(債務償還余裕率)の基礎と実践的活用について詳しく解説!

本記事では、不動産資産運用企業の財務担当者様に向けて、DSCRのより厳密な計算方法、具体的な活用法、そして金利変動などのリスクに対応するための高度な管理手法について詳述します。

DSCRの厳密な計算方法とその役割

DSCRは、不動産が生み出す純粋な収益が、年間のローン返済額をどの程度上回っているかを示す指標です。計算式は以下の通りです。

DSCR = NOI(純営業収益) ÷ 年間元利返済額(ADS

• NOI(Net Operating Income / 純営業収益): 不動産の収益力を示す指標です。満室想定の家賃収入から、空室による損失や未回収損を引き、さらに物件の運営にかかる経費(管理費、修繕費、固定資産税、保険料など)を差し引いて算出します。売却益のような一時的な収入は含めません。

• ADS(Annual Debt Service / 年間元利返済額): ローンの元本返済額と支払利息を合計した、年間の返済総額です。

例えば、ある物件のNOIが年間1,200万円で、ADSが1,000万円の場合、DSCRは1.2となります。これは、ローン返済に必要な資金の1.2倍の収益があることを意味し、返済余力があると評価されます。
一般的に、金融機関はDSCRが1.2以上であることを融資の一つの目安とすることが多いです。物件の種類や所在地、経済状況によっては1.3以上など、さらに高い水準が求められることもあります。DSCRが1.0未満の場合は、収益でローンを返済できない状態(キャッシュフローがマイナス)を意味するため、リスクが非常に高いと判断されます。

不動産投資におけるNOIの正確な算出方法

精度の高いDSCRを算出するには、その基礎となるNOIをいかに現実的に見積もるかが鍵となります。満室想定の楽観的な収益予測では、投資の潜在リスクを見誤る可能性があります。
財務担当者としては、以下の点を考慮し、保守的かつ現実的なNOIを算出する必要があります。

• 空室率と未回収損の見積もり: 物件が常に満室であることは稀です。周辺の市場データや物件の特性に基づき、現実的な空室率を設定し、収益から控除します。同様に、テナントによる家賃滞納のリスクも一定割合で見込んでおくことが重要です。

• 運営経費(Opex)の精査: 物件の維持管理に必要なコスト(管理委託費、定期的な修繕費、固定資産税・都市計画税、損害保険料など)を正確に把握し、収益から差し引きます。これらの経費を過小評価すると、NOIが過大に算出され、DSCRを見誤ることになります。

DSCRを活用した資金調達戦略の構築

DSCRは、有利な条件で資金を調達するための交渉材料となります。金融機関はDSCRを基に返済能力を評価し、融資額や金利、期間を決定します。

• DSCRが高い場合(例: 1.5以上): 返済能力が高いと評価され、低金利での融資や長期の返済期間など、好条件を引き出せる可能性が高まります。これにより、キャッシュフローがさらに改善し、再投資への余力を生み出します。

• DSCRが低い場合: 金融機関はリスクが高いと判断し、金利の引き上げ、返済期間の短縮、あるいは追加の担保や保証人を要求することがあります。

日頃から高いDSCRを維持する物件運営を心がけることが、企業の財務体質を強化し、成長を支える資金調達戦略の基盤となります。

リスク管理のためのストレステストと予測

不動産投資は、将来の不確実性を常に内包しています。特に変動金利での借入は、金利上昇が直接DSCRを悪化させる大きなリスク要因です。そこで重要となるのが「ストレステスト」の実施です。

ストレステストとは、金利上昇や空室率の悪化といったネガティブなシナリオを想定し、それでもなお事業が継続できるかを検証するシミュレーションです。

• 金利上昇ストレステスト: 例えば、適用金利が現在より1%~2%上昇した場合を想定してADSを再計算し、その状況でもDSCRが安全圏(例: 1.1以上)を維持できるかを確認します。

• 空室・賃料下落テスト: 周辺環境の変化により、空室率が想定より5%悪化した場合や、賃料が5%下落した場合のNOIを算出し、DSCRへの影響を分析します。

これらのストレステストを事前に行い、最悪の事態にも耐えうる資金計画を立てておくことで、不測の事態への対応力が高まります。また、こうした分析結果を金融機関に提示することは、リスク管理能力の高さを示す有力なアピール材料となり、信頼関係の構築に繋がります。

DSCRとLTVによる多角的な健全性評価

DSCRはキャッシュフローの健全性を示す重要な指標ですが、それだけで投資全体を評価するのは十分ではありません。投資の健全性を多角的に評価するためには、LTV(Loan to Value / 総資産有利子負債比率)と合わせて分析することが不可欠です。

LTV = 借入金残高 ÷ 物件の評価額

LTVは、物件価値に対してどの程度の借入金があるかを示す指標で、資産価値に対する負債の健全性を測ります。

DSCRとLTVのバランスが重要
たとえDSCRが高くても、LTVも極端に高い(例: 90%超)場合、自己資金が少なく過大な借入をしていると見なされ、金融機関は価格下落リスクを懸念します。
逆に、DSCRが基準値をわずかに下回っていても、LTVが十分に低い(例: 60%以下)場合は、自己資金比率が高く安全性が高いと判断され、融資が承認されることもあります。
DSCR(キャッシュフローの余裕度)とLTV(資産の健全性)という二つの側面からバランスの取れた投資を行うことが、長期的に安定した資産形成の鍵となります。

まとめ

不動産投資会社の財務担当者にとって、DSCRは単なる計算指標ではなく、事業の収益性と安全性をコントロールするための戦略的なツールです。
現実的なリスクを反映させたNOIの正確な算出を徹底し、金利上昇などに備えたストレステストで不測の事態への耐久力を検証する。そして、LTVとのバランスを常に意識し、財務の健全性を多角的に評価する。
これらのアプローチを通じてDSCRを適切に活用することが、金融機関からの信頼を獲得し、不動産投資事業を成功に導くための鍵となるのです。


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