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2025.6.28

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キャッシュフロー分析に有用なマチュリティ・ラダー分析とは?詳しく解説!

キャッシュフロー分析に有用なマチュリティ・ラダー分析とは?詳しく解説!

マチュリティ・ラダー分析とは?

一般企業での活用の話の前に、話をわかりやすくするために金融機関での例を説明させてください。

マチュリティ・ラダー分析とは金融機関(特に銀行)が、資産と負債の満期(Maturity)のズレを分析し、将来の資金繰りや金利変動リスクを管理するために用いる手法です。ALM(Asset Liability Management:資産負債総合管理)における中心的な分析ツールの一つです。

「ラダー(Ladder)」とは「梯子」のことで、将来の期間を梯子の段のように区切り(例:1ヶ月以内、3ヶ月以内、1年以内…)、それぞれの期間でどれくらいの資金が流入・流出するのかを一覧表形式で可視化することから、この名前がついています。

なぜこの分析が必要なのか?

銀行のビジネスモデルは、基本的に「短期で調達した資金(預金など)を、長期で運用(貸出など)する」という期間のミスマッチを内包しています。このミスマッチは収益の源泉である一方、以下の2つの大きなリスクを生み出します。

流動性リスク (Liquidity Risk)
・短期的に資金が流出し(預金の大量解約など)、必要な支払いができなくなるリスク。
・マチュリティ・ラダー分析は、将来のどの時点で資金が不足しそうかを事前に把握し、対策を講じるために不可欠です。

金利変動リスク (Interest Rate Risk)
・市場金利が変動した際に、資産からの収益と負債にかかるコストのバランスが崩れ、利益が圧迫されるリスク。
・資産と負債の満期がズレているため、金利変動の影響を受けるタイミングが異なり、利ざやが変動します。この影響度を測定するために用います。

    キャッシュフロー分析におけるマチュリティ・ラダー分析は、金融機関が自らの資産と負債の「期間のミスマッチ」を可視化し、将来の資金繰り(流動性リスク)と金利変動による収益への影響(金利変動リスク)を管理するための、極めて重要な分析手法です。この分析を通じて、金融機関は安定的な経営を維持しています。

    一般企業におけるマチュリティ・ラダー分析の目的

    金融機関が「ALM」の一環として行うのに対し、一般企業ではよりシンプルに以下の目的で活用します。

    資金繰りの安定化と予測(最重要):
    ・将来の資金ショート(黒字倒産)のリスクを早期に発見し、回避策を打つ。
    季節的な資金需要(賞与、納税など)や大型投資のタイミングを計画的に乗り切る。

    余剰資金の効率的な運用:
    ・いつ、どれくらいの期間、資金が余るのかを把握し、短期の運用(定期預金、MRFなど)や投資判断に活かす。

    財務戦略の策定
    ・借入金の返済計画、新規の資金調達(融資、増資など)のタイミングと金額を客観的なデータに基づいて決定する。
    ・運転資本(売掛金、買掛金、在庫)の管理状況を評価し、改善のヒントを得る。

      一般企業版マチュリティ・ラダーの作り方と使い方

      ステップ1:タイムバケット(期間)の設定

      まず、分析の期間を区切ります。会社の状況に応じて設定しますが、一般的には以下のように設定します。

      • 短期(~1年): 月次で区切るのが基本。「1ヶ月後、2ヶ月後…12ヶ月後」
      • 中長期(1年超): 四半期または年次で区切る。「1-2年後、2-3年後、3-5年後、5年超」

      ポイント: まずは向こう1年間の月次ラダーを作成することが、日々の資金繰り管理で最も重要です。

      ステップ2:キャッシュ・イン(資産サイド)の洗い出し

      各タイムバケットに、入金が予定されている項目をプロットします。

      • 確実性の高い項目:
        • 売掛金の回収予定: 回収サイトに基づいて、各月の入金額を予測。
        • 受取手形の期日: 手形期日に基づいて計上。
        • 固定資産の売却代金: 契約に基づいて計上。
        • 借入金の実行予定: 融資契約に基づいて計上。
      • 予測が必要な項目:
        • 将来の売上による入金: 事業計画や過去の実績から、将来の売上とそれに基づく入金額を予測。

      ステップ3:キャッシュ・アウト(負債サイド)の洗い出し

      各タイムバケットに、支出が予定されている項目をプロットします。

      • 確実性の高い項目:
        • 買掛金の支払予定: 支払サイトに基づいて、各月の支払額を予測。
        • 支払手形の期日: 手形期日に基づいて計上。
        • 人件費・固定費: 給与、家賃、リース料など、毎月固定的に発生する費用。
        • 借入金の返済予定: 返済スケジュール表(アモチゼーション・スケジュール)に基づいて計上。
        • 税金の支払い: 法人税、消費税、固定資産税などの納付時期に合わせて計上。
        • 賞与の支払い: 支払月に合わせて計上。
        • 設備投資の支払い: 投資計画と支払条件に基づいて計上。
      • 変動する項目:
        • 変動費: 仕入、外注費など、売上に連動して発生する費用。

      ステップ4:ギャップと累積ギャップの計算・可視化

      • ギャップの計算: 各月の「キャッシュ・イン合計 - キャッシュ・アウト合計」を計算。
      • 累積ギャップの計算: 前月の期末残高(または累積ギャップ)に当月のギャップを足し合わせ、各月末の予測資金残高を計算。

        【一般企業版 マチュリティ・ラダー分析のイメージ表(月次)】

        項目1ヶ月後2ヶ月後3ヶ月後4ヶ月後12ヶ月後
        月初資金残高1,0008507501,200
        【キャッシュ・イン】
        売掛金回収500600800700
        その他入金500500
        キャッシュ・イン合計550600850700
        【キャッシュ・アウト】
        仕入・経費支払300300300300
        人件費200200200200
        借入金返済100100100100
        設備投資支払020000
        税金・賞与10000300
        キャッシュ・アウト合計700800600900
        当月ギャップ-150-200+250-200
        月末資金残高850650900700

        *この表では「累積ギャップ」の代わりに、より直感的な「月初/月末資金残高」を使用しています。

        分析結果の具体的な活用シーン

        上記の表から、財務担当者は以下のようなアクションを検討します。

        • 資金ショートリスクへの対応(2ヶ月後):
          • 状況: 2ヶ月後に資金残高が650まで減少し、危険水域に近づくことが予測できる。これは「設備投資支払」が重なるため。
          • 対策:
            • 短期借入の検討: 銀行と事前に相談し、短期の当座貸越枠や手形割引の準備をしておく。
            • 支払の延期交渉: 設備投資の支払先と交渉し、支払時期を1ヶ月後ろにずらせないか検討する。
            • 売掛金の早期回収: 大口の得意先に依頼し、回収を早めてもらう。
        • 余剰資金の活用(3ヶ月後):
          • 状況: 3ヶ月後には、入金が集中し、資金残高が900まで回復する。
          • 対策: この資金をただ普通預金に置いておくのは非効率。例えば、1ヶ月ものの定期預金に入れるなど、短期でも安全性の高い運用を検討する。
        • 運転資本の改善検討:
          • 状況: 常に「売掛金回収」よりも「仕入支払」が先行している場合(売上サイトが長く、支払サイトが短い)、資金繰りが厳しくなる傾向がある。
          • 対策:
            • 営業部門と連携し、得意先との回収サイト短縮交渉を行う。
            • 購買部門と連携し、仕入先との支払サイト延長交渉を行う。
        • 銀行との融資交渉:
          • このラダー表は、銀行に提出する「資金繰り表」そのものです。
          • 「6ヶ月後に大型投資でこれだけの資金が必要になるため、融資をお願いしたい」といった交渉を、客観的なデータに基づいて行うことができ、説得力が増します。

        まとめ

        一般企業の財務部にとって、マチュリティ・ラダー分析は「会社の血液である現金の流れを未来にわたって可視化する健康診断」のようなものです。
        財務管理システムCOURAGEUXでは借入金のデータ関してはラダーで簡単に出力できますので、Excelと組み合あわせてまずは向こう半年から1年の月次ラダーを作成し、定期的に(最低でも月1回)実績値で更新していくことをお勧めします。これにより、受動的な資金管理から、先を見越した能動的な財務戦略へと転換することが可能になります。


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